公益財団法人高速道路調査会というところが発行している『高速道路と自動車』という本に寄稿した。
5月発行号に掲載されて、次の号が出たので、何を書いたかこのブログにものっけておこうと思う。

それなりに、熱い思いで書いたので。ww

IMG_1481

電気自動車は、少し不便でちょうどいい

電気自動車で日本一周を走破!

 私は旅とドライブが好きなフリーランスのジャーナリストだ。環境関連からITまでジャンルを問わずさまざまな取材執筆をするかたわらで、1994年から20年以上「日本EVクラブ」(EV=電気自動車)という市民団体で電気自動車の普及活動に関わっている。2013年には日本EVクラブが主催した『EVスーパーセブン急速充電の旅』のメインドライバーとして、電気自動車による日本一周の旅を経験した。
 EVスーパーセブンとは、イギリスの名車として知られるケータハム・スーパーセブンを手作りで改造した電気自動車だ。搭載する電池容量は13.2kWh。一回の充電で100〜120km程度しか走れないEVで、当時、ようやく国内で整備が加速し始めた急速充電器だけを使って日本を一周するチャレンジだった。結果は無事に大成功。9月24日から11月17日までの56日間で約160回の充電を繰り返し、沖縄県を除く全都道府県を踏破して約8150kmを走りきった。

20131103_DSC06082

 旅をした2013年10月に1759か所だった日本国内の急速充電スポット数は、2016年1月現在で約6000か所にまで増えている。当時は高速道路のサービスエリアにまだあまり急速充電器は設置されていなかったが、現在では東北地方の仙台以北を除く全国の高速道路サービスエリアに急速充電器の整備が進み、首都圏など混雑するサービスエリアへの複数台設置や、パーキングエリアへの設置も進んでいる。たとえば東京から鹿児島まで市販EVで一度も高速道路を下りることなく走りきるための急速充電網が今はすでに整っている。日本の高速道路は、電気自動車で快適に走るために世界でもっとも整備が進んだ道になったといっていいだろう。

EVが教えてくれること

 COP21の「パリ協定」で温暖化抑止の2度目標が明言されるなど、温室効果ガス排出削減はますます世界の重要な課題になっている。発電のゼロエミッション化という課題はあるが、自動車の「電動化」は運輸部門の排出削減を進めるために不可欠だ。EVの電池を家庭用の蓄電池として使えることを考えれば、家庭部門の排出削減にEV普及が貢献できる可能性も小さくない。ドイツを中心とした欧州メーカーが続々とプラグインハイブリッド(PHV)車を発表しているのも、自動車の電動化が世界の大きな意思になりつつあることを示している。
 私自身、2009年に三菱が『i-MiEV』を発売して以来、さまざまな市販EVで各地の高速道路を走ってきた。2013年ごろまではサービスエリアの急速充電器が少なかったので、何度も高速道路を下りて充電しなければならなかった。ある程度充電網が整った今でも、市販EVの多くは一充電航続距離が短くて、ルート上のすべてのサービスエリアに各駅停車で充電しなければいけなかったりする。EVはまだまだ不便な自動車なのである。
 でも、不便さを不満に感じるかといえば、私の場合はそうでもない。電気モーターならではのスムーズな加速や、走っていて感じる気持ちよさなど、EVには不便さを甘受してもお釣りが来るほどの楽しさがあるからだ。充電プランを組み立てて、限りあるエネルギーで効率よく移動することにも、知的なゲームのような面白みがある。
 EVはいろんなことを教えてくれる。高速道路の上り勾配を走るとみるみるうちに減っていく電池残量には、自動車が移動するためにいかに多くのエネルギーを消費しているかを実感する。逆に、富士山五合目から標高差2000mほどを一気に下り、半分ほどに減っていた電池残量が回生ブレーキで満充電近くまで回復したこともある。EVに乗っていると、自分が使っているエネルギーの量や、その由来にまで敏感になることができるのだ。
 従来のガソリンスタンドとは違い、急速充電器はビジネスにはなりにくく、社会が相応の負担をして設置する道路インフラだ。航続距離が短いという不便さがあるからこそ、電池残量ギリギリでサービスエリアの急速充電器にたどり着いた時、そこに充電器を設置してくれた関係者や社会への感謝の気持ちを抱くことができる。エンジン車で走っている時には当たり前のものだったサービスエリアや高速道路そのものまでが、スムーズに移動するための社会インフラとしてありがたいものだと気付くことができる。EVにまだあまり興味のない人にとってはEVびいきの負け惜しみに聞こえるかも知れないが、EVに乗っていると少し賢くなれる気がするのだ。

20130928_oirase

便利になれば、それでいい?

 2015年の年末、日産『LEAF』に今までの24kWhモデルに加え、30kWh(一充電走行距離は280km※JC08モード)の電池搭載モデルが追加された。自動車用大容量電池の技術はますます進化して、2020年ごろまでには実質的な一充電走行距離が300kmを超えるEVが何車種も出揃うはずだ。EVの台数増加に伴って高速道路網をはじめとする日本国内の充電インフラがますます整備されることも想像に難くない。現状の「航続距離が短い」や「充電設備が少ない」といった不満は解消されて、EVは実用的な自動車として広く普及する力を獲得していくだろう。
 とはいえ、魅力的なEVが増えることをうれしく思う一方で、EVをただの便利な自動車にしていくだけのやり方はあまり正しくないのではないかという思いがある。不便なEVを使いこなそうとしていたからこそ、エネルギー消費に敏感になり、社会に感謝することができた。あわよくば、化石燃料を無尽蔵に燃やす文化から脱却して、新しい社会を生み出す原動力にさえなると感じてきた。
 ところが、EVが今までのエンジン車と同じ便利さで使える自動車になってしまったら、石油が電気に替わるだけで元の木阿弥。社会が変わるチャンスを逃してしまう。日常的に不必要な大容量電池を積んだEVが街にあふれるのもあまり健全な風景ではない。
 はたして、自動車は一気にどのくらいの距離を走れるべきなのか。今の市販EVたちは「ちょっと不便なくらいがちょうどいい」と教えてくれている。もちろん、EVの航続距離が伸びることに異論はない。でも、自動車メーカー各社には、あえて電池搭載量を抑えた、軽快で廉価なモデルをラインアップしてくれることを希望しておきたい。